国家公務員宿舎には、財務省の管理する合同宿舎と各省庁の管理する省庁別宿舎がある。
2002年度には、宿舎戸数は約4千4百戸が国の予算により設置され、2003年9月1日現在における公務員宿舎の総戸数は約29万戸となっている。
(財務省理財局のレポートより)
国家公務員95万8000人に対し、国家公務員住宅が約29万戸なので、3.3人に1戸が利用できる計算だ。持ち家率を勘案すれば、望めばかならず入居できる程度の戸数だといってよいだろう。
一方、就業人口6千万人に対し、公務員じゃなくても利用できる公営住宅(公営住宅法上の公営住宅)は約219万戸存在する。27.4人に1戸が利用できる計算となる。ちなみに、これら非公務員用公営住宅の平均倍率は、9.4倍と発表されている。(国土交通省発表公営住宅制度の課題についてより)
国家公務員住宅の使用料は、国家公務員宿舎法とその関連法規によって決まっている。
条文では分かりにくいので、分かりやすく試算してみた。→国家公務員宿舎の試算
国家公務員住宅については、「事実上のヤミ手当では?」といった指摘もあって、料金の改定が進められている。その骨子は、2005年4月と2007年4月の2回に分けて、段階的に値上げするものであり、平均で25%の値上げになると発表されている。なお、本サイトの試算賃料は、平均約25%アップされた後の数字で計算したが、それでも普通の感覚からかけ離れた安い料金だ。
財務省理財局は、東京都23区内の新築宿舎を例にあげ、と適正負担化をアピールしている。
しかしながら、経年調整の引き下げ幅は拡大されている。
改正前と改正後の平米単価の増減表(⇒計算方法)規格 | 広さ | 新築 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 40年 | 45年 |
a | ~24㎡ | 162 | 85 | 48 | 29 | -71 | -75 | -78 | -77 | -79 | -78 |
b | 25~54㎡ | 162 | 85 | 48 | 29 | -71 | -75 | -78 | -77 | -79 | -78 |
c | 55~69㎡ | 188 | 102 | 60 | 39 | -87 | -92 | -96 | -95 | -97 | -96 |
d | 70~79㎡ | 450 | -70 | 77 | 54 | -100 | -106 | -110 | -109 | -111 | -110 |
e 1 | 80㎡~ | 480 | -49 | 90 | 63 | -119 | -126 | -130 | -129 | -133 | -131 |
e 2 | 100㎡~ | 532 | -15 | 114 | 81 | -151 | -160 | -165 | -164 | -168 | -166 |
このように、今回の改正は、新築後5年以内の使用料を高くみせることによって、適正化をアピールしているかのようだ。それにしても、経年調整が大きすぎやしないだろうか。ここで財務省が42.3%増をアピールする東京都23区内の新築宿舎の経年後を計算してみよう。
基準使用料 | 新築 | 5年後 | 10年後 | 15年後 | 20年後 | 25年後 | 30年後 | 35年後 | 40年後 | 45年後 | 50年後 | |
63㎡の宿舎 | 623円/㎡ | 39,249円 | 37,548円 | 36,162円 | 34,839円 | 33,831円 | 32,823円 | 31,941円 | 31,122円 | 30,618円 | 30,177円 | 29,610円 |
88㎡の宿舎 | 1035円/㎡ | 91,080円 | 87,120円 | 83,952円 | 81,664円 | 78,408円 | 76,032円 | 74,008円 | 72,072円 | 70,928円 | 69,960円 | 68,552円 |
課長さんクラスの入る88㎡の住宅だと、築15年で1万円の値下げとなる計算だ。しかしながら、普通の賃貸マンションにおいて、このようにだんだん安くなるという考え方は存在しない。木造や軽量鉄骨のアパートでさえ、「10年経ったら10%値下げなきゃ」などと考えるオーナーはいない。なぜなら、不動産の評価は立地によるところが大きいからだ。事実、賃貸市場においては、建物が古くなっても、相場の上昇に引張られるように賃上げされてきた。バブル崩壊から現在まで続く大不況においても、概ね横ばいだ。
居室の使用料以上に恵まれているのが、駐車場の充実ぶりとその低料金だ。まずは一覧を見てみよう。
駐車場の形態 | 有料宿舎の所在地毎 | |||
(特別区) 東京23区内 |
(甲地) 横浜、川崎など |
(乙地) 浦安、市川など |
その他 | |
平置き駐車場(屋外) | 5,650円 | 3,850円 | 2,025円 | 1,862円 |
自走式駐車場等(屋外) | 6,862円 | 5,062円 | 3,262円 | 3,050円 |
自走式駐車場等(屋内) | 6,850円 | 5,050円 | 4,362円 | 4,137円 |
地下駐車場等 | 16,025円 | 14,300円 | 13,650円 | 13,437円 |
ちなみにお役所は、都心の地下鉄から徒歩10分以内の場所に新築する場合においても、全戸数の60~100%の平置きまたは自走式駐車場を条件にしている。一方、十分な駐車場の確保できない古い宿舎は、放置されている。
かくしてお役人は、駐車場料金程度の自己負担だけで、駐車場付きのファミリータイプの住居を利用できることになるのである。安い家賃のために長い時間を電車にゆられたり、駐車場を確保するためにバス便の立地で我慢するようなことは、公務員にはまったく無縁な世界なのである。
このようにお役所は、公務員住宅を民間企業の社宅と比較して適正負担を正当化している。しかしながら、民間企業の社宅は比較対照として適当ではない。なぜなら、民間企業の社宅には、常に節税や投資の目的が存在するからだ。それに民間企業では、1990年代後半から続く大幅な合理化(資産や人的コストの見直し)によって、含み損を抱えて売りたくても売れないものや、安い賃金で働く工場の期間従業員のようなものを除けば、その多くは売却されている。例外は、他社にマネのできない商品によって揺るぎない価格主導権を持ち、有り余る利益を隠したいエクセレントカンパニーくらいだろう。
お役所は、公務員住宅を決して民間の賃貸住宅と比較をしない。その理由として次の2つがあげられている。
はたしてその理由に説得力はあるのだろうか?
1.営利を目的としていない、について
国家公務員住宅は、営利を目的としない公営住宅と比較しても、その使用料の安さは際立っている。低所得者や老人などの社会的弱者を前提とした使用料より安いのだから、もはや「ウラ給与」といっても過言ではないだろう。
2.借家権がみとめられていない、について
借地借家法に規定された借家権は、弱者保護に全く機能しておらず、弱者の切捨てと借家権を名目にした借主負担を増大させている(詳細は「はじめに」を参照ください)。また公営住宅のありかたについても、抜本的に考え直さなければならない時期にきている。
「住」の特権が与えられた公務員が、こうした現実を実感することはないだろう。そして、根本的な問題はそこにある。つまり、特権によって「住」の現実を知らない公務員によって、「住」の問題が表面化しないのである。問題を解決するためには、まず問題を共有化が必要なのだ。公務員と非公務員では、住む世界の次元がまったく違っており、これでは問題の共有化などできやしない。公務員の特権を削り、公務員が同じ目線で社会をとらえられるようにするべきだろう。
国家公務員宿舎に関する広報資料をあれこれみても、今回の改正で適正化されたことになっており、これ以上の改革を行うつもりはないようだ。それどころか、老朽化した宿舎を次々に建て替えようとしている。
公務員宿舎は、たしかに古い宿舎も多いし、単に建ぺい率からみると無駄だらけだ。しかし、これら国家の土地を国家公務員のためだけに利用させ、その土地に多額の税金を投入して公務員用住宅を建て、それを相場からかけ離れた安い料金で貸し与えることに対して、どれほどの納税者が理解を示すだろうか。